2017年04月24日

「昔はなし」その280 焼物屋に県令も参る

焼物屋に県令も参る

 奈良の薬師寺詣りの道すがら、赤肌焼の
店を見たことがあります。
 このとき、聞いた話ですが、奈良で一番
偉い人が(県令くらいでしようが)ある日
店へはいってきて「これは売品か」とたず
ねるので主人が「さようでございます」
と返事をしましたそうです。
 すると、偉い人はステッキで棚の上の方
を指して「あれを見せろ」というと、主人
は「あれは見せるほどのものではありませ
ん」と申しました。
 「では売ってくれ」というと「売るほど
のものではありません」と断りました。
 つづいて偉い人がステッキで指す品を
「見せるほどのものではない」「売るほど
のものではない」と主人が拒みつづけた
ので偉い人は「売品といって一つも売ら
ないのか」とぶつぶついって店を出ていっ
たそうです。
 あとで人が「どうして売らなかったの
か」と主人にたずねると「苦心の作品をス
テッキで指すような男には売れない」「で
も、あれは偉い人なんだよ」 「いや、偉
いだったら、そういう無礼なことをするは
ずはない」と申したそうです。
 名のあるものをつくる人々のきびしい心
構えの話を聞いて私はそのとき、赤肌焼の
主人の心構へは尊いものだと思いました。


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Posted by ひimagine at 06:00│Comments(0)豊橋の昔はなし
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