2017年03月23日

「昔はなし」その248 調子合う筈師匠が同じ

調子合う筈師匠が同じ

 昔、愛知銀行の支店長を福田釣夫がやって
いたころです。大蔵省から市川という役人が帳
簿検査にやってきました。その市川を私の家へ
昼飯に福田支店長がつれてきて「市川さんは
謡曲が好きだから相手をしてくれ」と私に申し
ました。
 「では一曲まいりましょうか」と私たちがはじ
めたところが、これはまた、馬鹿に両方の調子
が合うのです。「失礼ですが御師匠は」と聞くと
思いもよらず、先生がまた同じだったということ
で、ますます投合してしまいました。
 そのため昼が夕方になり、夕方が夜になって
しまいました。その間福田支店長は「銀行では
帳簿をそろえて待っていますから」とさいそくに
来るのですが、市川は「検査は明日にしとく」と
いって、その日は謡曲でつぶしてしまいました。
 翌朝、福田支店長が迎えにきて、「銀行の方
でお調べを」というと「いま一曲やりかけている
ところだ、私のハン(印鑑)を持っていって、適
当に捺しておけばよい」と、ついに帳簿校査は
流れてしまいました。
 市川はのちに役人生活を辞して、謡の先生
になったという話を風のたよりに聞きました。

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Posted by ひimagine at 06:00│Comments(0)豊橋の昔はなし
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