2016年10月27日
「昔はなし」その106 先代の加藤六蔵さん
先代の加藤六蔵さん
先代の加藤六蔵さんは立派な人でした。代議
士として評判がよく、知らない人にはどこかの
華族様かと思われたほど立派な容姿でした。
お抱えの人力車がおいてあって、それで豊橋
へやってきました。いつも虎の皮が人力車のう
しろにかけてあるので誰にでも「ああ、加藤さ
んの車が行く」と一目でわかりました。
あの人のくせは、話しながら両手で眼鏡に手
をかけることでした。豊川畔の更科へよく飯を
たべにいきましたが、一人前廿五銭の飯を喰っ
て借りていくので、更科の主人公は前芝まで掛
取にいくのに骨が折れたといっていました。
殿様風だった加藤さんは、そういう細かい勘
定には無関心だったのです。
更科で飯を喰ったあとで関屋河岸から前芝ま
で船でもどったとき、前芝の海へ船を放ったら
かしたままなので、船主が困ったりしました。
加藤さんはそういう無とん着な人でした。
ある晩でした。店を閉って寝ようとしていると
表戸をどんどんたたくので開けてみると、どか
どかと二十人位入ってきました。店はしまった
からと女中が断わると「主人に会わせろ」とい
う話です。出てみると、東京の富士見楼、加賀
屋、それに名古屋の河文なども混って一流の
料亭の主人公ばかりでした。事情を聞くと、加
藤六蔵さんが料理屋税を増すという案を国会
に出すから、それを阻止しなくてはならない。
いまから前芝へ行きたいが、この夜中では会っ
てくれないと困るから君が案内してつれていけ
と云う次第です。
私も困りはてましたが、どうしてもと言うので
二十台の人力車をつらねて前芝まで行きまし
た。「千歳楼です、開けて下さい」というと開け
てはくれましたが、ドカドカと二十人も土間へ入
りこんだので加藤さんの家でも驚いたらしいの
です。
加藤さん方では番頭さん数人が起きてきて万
一のことがあってはと、加藤さんのまわりを警
護していました。そこで代表が増税反対のこと
を述べると、加藤さんは、それは何かの誤解だ
と語りました。結局東京の連中の早合点だと、
あとでわかりました。
このことから日本全国に料理屋組合のできる
契機をつくつたようなもので、つまり加藤さんの
おかげで料理屋組合が日本に生れたとも言え
ましょう。
「郷土豊橋を築いた先覚者たち」より加藤六蔵
先代の加藤六蔵さんは立派な人でした。代議
士として評判がよく、知らない人にはどこかの
華族様かと思われたほど立派な容姿でした。
お抱えの人力車がおいてあって、それで豊橋
へやってきました。いつも虎の皮が人力車のう
しろにかけてあるので誰にでも「ああ、加藤さ
んの車が行く」と一目でわかりました。
あの人のくせは、話しながら両手で眼鏡に手
をかけることでした。豊川畔の更科へよく飯を
たべにいきましたが、一人前廿五銭の飯を喰っ
て借りていくので、更科の主人公は前芝まで掛
取にいくのに骨が折れたといっていました。
殿様風だった加藤さんは、そういう細かい勘
定には無関心だったのです。
更科で飯を喰ったあとで関屋河岸から前芝ま
で船でもどったとき、前芝の海へ船を放ったら
かしたままなので、船主が困ったりしました。
加藤さんはそういう無とん着な人でした。
ある晩でした。店を閉って寝ようとしていると
表戸をどんどんたたくので開けてみると、どか
どかと二十人位入ってきました。店はしまった
からと女中が断わると「主人に会わせろ」とい
う話です。出てみると、東京の富士見楼、加賀
屋、それに名古屋の河文なども混って一流の
料亭の主人公ばかりでした。事情を聞くと、加
藤六蔵さんが料理屋税を増すという案を国会
に出すから、それを阻止しなくてはならない。
いまから前芝へ行きたいが、この夜中では会っ
てくれないと困るから君が案内してつれていけ
と云う次第です。
私も困りはてましたが、どうしてもと言うので
二十台の人力車をつらねて前芝まで行きまし
た。「千歳楼です、開けて下さい」というと開け
てはくれましたが、ドカドカと二十人も土間へ入
りこんだので加藤さんの家でも驚いたらしいの
です。
加藤さん方では番頭さん数人が起きてきて万
一のことがあってはと、加藤さんのまわりを警
護していました。そこで代表が増税反対のこと
を述べると、加藤さんは、それは何かの誤解だ
と語りました。結局東京の連中の早合点だと、
あとでわかりました。
このことから日本全国に料理屋組合のできる
契機をつくつたようなもので、つまり加藤さんの
おかげで料理屋組合が日本に生れたとも言え
ましょう。
「郷土豊橋を築いた先覚者たち」より加藤六蔵
Posted by ひimagine at 06:00│Comments(0)
│豊橋の昔はなし