2016年10月24日

「昔はなし」その103 華山の俳句

華山の俳句

 伏見宮様に御覧に入れた崋山の作品のなか
で桜の枝を描いたものがあって、それに
   こんな日にいくさもしたか花の山
 と賛がありました。味わいふかいものでした。
またある所から拝借したものに祭の御輿をわ
っしよい、わっしよいと若い衆がかつぎ廻って
いる絵に
   やがて死ぬものとは見えずセミの声
と添句がありました。崋山らしい人生観があふ
れているものでした。他に崋山の「オランダ人
の肖像」や小華の「ちん」も出ました。こういう
ものが主となって宮様の廿一日間の御滞在を
御慰めしたのですが、借し方では、心配でちゃ
んと待っていて取替がすむと、さっと持って帰
るというほどに、楽屋裏は大へんなことでした。
私も華山の真筆、名作をこのように沢山拝見
した機会はこれが最後でした。
 伏見宮様がこられたことがあります。伏見宮
様は書と盆栽が好きで、二十一日間の御滞在
に「ここは崋山や小華の筆が多いと思うが、も
し見られたら」といわれたのでさっそく市当局へ
話をしますと、市の方から有力者へ交渉して、
崋山、小華の軸や盆栽類が集められました。
 崋山の作品では「虎」「龍」「青緑の山水」油
絵風の「ヒポクラテスの肖像画」も出ました。こ
れはあとで小華が写生したことがあって、その
写生の作品も出されました。伏見宮様に御覧
にいれた作品の崋山の「秋景の山水」は頼山
陽の賛が加えられているものです。
 「もう一日かけておいてくれないか」と宮様は
大へん、お気に入りの様子でした。この作品は
お見せするのには羞かしいほどの、ひどい表
装でしたが、あとで山下汽船の社長の出下亀
三郎の手にはいりました。そのおり、崋山の
「蝉」小華の「トンボ」「不老こう門」なども出さ
れました。
 他に六枚折のびようぶが出ました。従然草の
びようぶと呼ばれるものです。この中の絵は狩
野風、土佐風その他いろいろな筆法が用いら
れ、しかも、それを見事に克服した崋山独自の
画風が躍動する見事なものでした。


 ヒポクラテス像/東京国立博物館蔵
「昔はなし」その103 華山の俳句

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Posted by ひimagine at 06:00│Comments(0)豊橋の昔はなし
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