2016年10月07日
「昔はなし」その86 タバコの垣根と現兼
タバコの垣根と現兼
魚町に古市兼吉という男がいました。現金屋
という下駄屋でしたので世間では「現兼」(げん
かね)と呼んでいました。
この男は魚町を一人で背負って立っているみ
たいに魚町のことには熱心でした。勢力もあっ
たんです。
お祭、その余興、消防のことからなんでも現
兼がやっていました。また町内もまかせきりで
した。上下から信頼される正直な男でした。そ
のころ魚町の能舞台は平素は板で被って雨や
風で損わぬようにしてありました。少し雨が降
ったりすると現兼はすぐ近所の人を呼びました。
呼ばれて出てくるのは、店員ではなくて主人
公ばかりです。その主人公を指揮して板かこい
を補強するのですが、それだけでも現兼の勢
力がよくわかりました。
この現兼の勢力に目をつけたのが反大口派
の遠藤安大郎でした。遠藤はしばしば現兼の
店を訪れるのですが、商人の現兼としては悪
い気持がいたしません。現兼の名誉心は大い
に満足できたわけです。「まあ、まあ」と遠藤
を奥へ招じ入れては、現兼は店で下駄の仕事
をしつつ、あれやこれやと語りあっていました。
当時遠藤は細い七分巻のタバコを喫っていま
したが、話に夢中になると、一寸喫いかけた
タバコを火鉢にさすなり次の新しいタバコに火
をつけるくせがありました。
ですから、またたく間に火鉢へ喫いかけタバ
コの垣根がぐるっとできています。その頃は五
十本入りのタバコがありましたが、少し長居を
すると遠藤は一箱を火鉢のなかへさしこんでし
まいました。現兼は、遠藤が戻っていくと、それ
を拾いだして、けっこう一日分ぐらいの喫い料
にしていました。
魚町に古市兼吉という男がいました。現金屋
という下駄屋でしたので世間では「現兼」(げん
かね)と呼んでいました。
この男は魚町を一人で背負って立っているみ
たいに魚町のことには熱心でした。勢力もあっ
たんです。
お祭、その余興、消防のことからなんでも現
兼がやっていました。また町内もまかせきりで
した。上下から信頼される正直な男でした。そ
のころ魚町の能舞台は平素は板で被って雨や
風で損わぬようにしてありました。少し雨が降
ったりすると現兼はすぐ近所の人を呼びました。
呼ばれて出てくるのは、店員ではなくて主人
公ばかりです。その主人公を指揮して板かこい
を補強するのですが、それだけでも現兼の勢
力がよくわかりました。
この現兼の勢力に目をつけたのが反大口派
の遠藤安大郎でした。遠藤はしばしば現兼の
店を訪れるのですが、商人の現兼としては悪
い気持がいたしません。現兼の名誉心は大い
に満足できたわけです。「まあ、まあ」と遠藤
を奥へ招じ入れては、現兼は店で下駄の仕事
をしつつ、あれやこれやと語りあっていました。
当時遠藤は細い七分巻のタバコを喫っていま
したが、話に夢中になると、一寸喫いかけた
タバコを火鉢にさすなり次の新しいタバコに火
をつけるくせがありました。
ですから、またたく間に火鉢へ喫いかけタバ
コの垣根がぐるっとできています。その頃は五
十本入りのタバコがありましたが、少し長居を
すると遠藤は一箱を火鉢のなかへさしこんでし
まいました。現兼は、遠藤が戻っていくと、それ
を拾いだして、けっこう一日分ぐらいの喫い料
にしていました。
Posted by ひimagine at 06:00│Comments(0)
│豊橋の昔はなし