2016年10月06日

「昔はなし」その85 くもを喰う久太

くもを喰う久太

 昔、札木に、かって脇本陣であった桝屋旅館
の前に江島屋という下駄屋がありました。そこ
の久太というのは「がむしゃら」な男で無鉄砲
で名をとっていました。
 また、そのころ魚町の中平の先々代は寿司
をつくることが名人で屋台店の寿司屋を札木
へ出していました。
 これがまた、すこぶるうまくて評判でした。こ
の屋台店へ乱暴者の久太がある日でかけて、
何かのことで、相客と喧嘩をして中平の屋台
店をひっくりかえしてしまいました。
 さあ、これが魚町の若い衆にすぐ知れたか
ら大騒ぎです。「それいけ」と若い衆が現場へ
かけっけてみると久太はいない。家までいけ
と押しかけました。久太は何を考えたか、素裸
になって大道へごろんと横になって「さあ、勝
手にしてくれ」と言うのには、さすがの魚町の
若い衆も手の下しようがありませんでした。
 久太の話しですが、久太の向いの桝屋旅館
の女将がある日「きゃあッ」といって家から飛び
出してきました。久太が出て見ると女将のおせ
いが顔色蒼白でふるえていました。たずねると
「くもが…とても大きなくもが…」と女将は身も
世もないというような恐怖の表情です。
 久太が桝屋へ飛びこもうとすると、久太の足
元に蛇がはいだしてきました。久太はやにわに
蛇を殺しかけると女将や表へ出てきた人々が
「よせ、よせ」と止めましたが、久太は「なあに」
と言って殺してしまいました。
 久太は蛇を殺しておいてから女将のおせいと
内へはいっていくと、なるほど大きなくもが壁に
いました。「こんなもの、なんじゃい」とばかり、
久太のうしろで女将がふるえているのもかまわ
ずに、くもをパクリと久太は喰べてしまいました。
 家へ戻ってしばらくすると久太はゲ―ゲーや
ってすっかり吐いてしまいました。 「それみろ」
とみんながいうと「美味くなかったから、吐いた
んだ」と久太はうそぶいていました。
 その後また久太に妙な腫物ができました。
人々は「ありゃ、蛇のたたりだ」と恐ろしがって
いると、久太は「こんなものは」と自分でオデキ
をつぶすと、中から蛇の形をしたようなウミが
ぞろぞろと出てきました。見ていた者はギョッ
としましたが久太は「こんなもの、何ぢやい」
と言うなり酢をかけてぱくぱく喰ってしまいま
した。側にいたものは全くキモをつぶしました。
 そのうちに、またオデキができました。つぶす
と、やはり蛇みたいなウミが出てきました。それ
を久太は相変らず喰うのです。そのうちにオデ
キが治ってしまうと「見ろ治ったぢゃないか、
へびなんぞ崇るわけはない」と豪語していました。
 ところが、久太の乱暴はこれからもつづきました。


同じカテゴリー(豊橋の昔はなし)の記事画像
「昔はなし」その177 豊川鉄道の開通式
「昔はなし」その163 安藤の豚会社
「昔はなし」その151 三千円で失つた機関庫
「昔はなし」その143 仙十さんの太閤ぶり
「昔はなし」その135 悟真寺の池
「昔はなし」その112 浮世絵と川せり
同じカテゴリー(豊橋の昔はなし)の記事
 「昔はなし」その312 あとがき (2017-05-26 06:00)
 「昔はなし」その311 札木の八日講の御膳所 (2017-05-25 06:00)
 「昔はなし」その310 服部長七の鋭い頭 (2017-05-24 06:00)
 「昔はなし」その309 豊沢団平の三味線 (2017-05-23 06:00)
 「昔はなし」その308 浅吉、高利以上だと嘆く (2017-05-22 06:00)
 「昔はなし」その307 皇太子の料理人の苦労 (2017-05-21 06:00)
Posted by ひimagine at 06:00│Comments(0)豊橋の昔はなし
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。